Scene.35 本屋は夢のなかぁ~!
高円寺文庫センター物語㉟
「だってさ。
さすがに21人にも膨れ上がると、『焼き鳥 大将』じゃ迷惑も甚だしいでしょ!
がんじゅう屋で明日葉の天麩羅を食べたかったんだけど、先約があってダメだったんだもん・・・・」
「店長。出張で、助っ人参加もできなくてごめんなさい。
清志郎さんに続いての、チャボさんでしょ。RCサクセション大好きな文庫センターさんがノリノリなのはわかるんですけど、みなさんの感動を聞きたいな!」
「みなしゃぁん!
聞いてくれっちゃ。いつも、外の整理ばっかやったけんが。チャボさんの撤収間際に、話せるチャンスがあったとよ!
オレは、言ったね。『オレも、バンドやってんっす!』そしたら、チャボさん! なんつったと思う?!
『わお、いいじゃん!』って、言ってくれやったと! 感激ばい」
ったく、沸騰してら。文庫センターの主力三人は、沸点が低い単細胞なのかなぁ・・・・
クールなさわっちょには、ボクらは三バカ大将に映っただろうな? 反面教師にして、一番成長してたのは、さわっちょかも知れない。
なんて、思っていたら近づいてきた!
「そろそろ、会計かい?」
「違いますよ。
店長が酔わないうちにと思って、一昨日の店長がおやすみの時に『高円寺本舗』の名越さんが来られたんです。わたし、明日お休みだから報告をしておかないとって思って」
「さすが、さわっちょ!」
「はい。
それで名越さん、新刊の『月刊高円寺阿佐ヶ谷本舗』を持って来られたんです」
「4号目かな、阿佐ヶ谷をくっつけて高円寺は再取材したんだろうな?!
みなさん! 『月刊高円寺阿佐ヶ谷本舗』も、よろしくお願いします!」
「りえさん。
今日は店長、黙々と棚作りしてますけど無口で不気味じゃないですか?」
「ヤバいわよ・・・・
あのお喋り店長が、喋らないのは相当どっか虫の居所が悪いんだから」
「そりゃそうばい!
あれだけ店長がやりたがっていた、早川義夫さんの新刊でサイン会。断られてしまったけんが、珍しく落胆してたけん無理なかばい」
「しかもですよ。
先日のサッカーワールドカップの、日本・ベルギー戦。帰りの通勤客がどんどん店のまえスルーして、テレビ観戦に帰って行っちゃうじゃないですか。
お店、閑散として最悪の売り上げになったって嘆いていました」
「文庫センターの稼ぎのゴールデンタイムに、ワールドカップじゃ最悪よね。
ただでも店長。『水木しげる先生が戦争で左腕を失っているのに、なんでわざわざ腕を使わないスポーツがあるんだ』って、憤っているところにこれでしょう」
「あ、店長がこっち来るけん。仕事仕事!」
「すいません!」
ん、奇妙な輩が入ってきた。腹巻こそしていないものの『バカボン』のパパか?!
「はい、なんの御用でしょうか?
よろしければ、お名刺をいただければ・・・・」
「鳥肌実です。名刺は、このスタイルなんですよ」
後日談である。ここで、内山くん・りえ蔵・さわっちょは店長からプチ! っと、切れた音が聞こえたそうだ。
「なんだって!
いい? 挨拶なり、プロモーションなりで来たんならキチンとした挨拶と名刺は大前提でしょ!
いいかい。うちに来られた忌野清志郎さんや浅草キッドさんだって、初対面の挨拶は丁寧にして下さっているんだよ。
誰の紹介もなくて、ビジネスだろうに傍若無人な態度はなんだ! 外に出ろ!」
「ヤバいよ、内山さん!
店長。シャッター閉める鉄棒を持ってつまみ出したわよ」
「おい、クソガキ!
店長を羽交い絞めにしてる間に、消え失せろ。詫びも入れずに、また現れたらオレが許さんけんな!」
鳥肌実。二度と文庫センターに、現れることはなかった。